退職と人生
- 何もやってないんだな
高校時代の友人に健六というのがいる。彼は当時私より勉強ができた。悠々と経済学部に進み銀行に就職した。月日は流れ齢五十となったころ、高校時代の旧友との呑み会で彼と久しぶりに会った。彼は支店長代理になっていた。
健六 「まつをは行きつけのスナックとかないの?」
まつを「そう」
健六 「土曜にゴルフに行こうぜ」
まつを「すまん。やってない」
健六 「じゃ、麻雀は?」
まつを「もうしわけない」
健六 「ふ~ん。まつをは何もやってないんだな」
思わず笑った。
仕事とスナックとゴルフと麻雀がすべての人生。
人生というプールのターンを切ると、人は省察をはじめる。「私の人生は実り多いものだったのだろうか。そしてこれからはどうだろうか」と。
- 退職後ひきこもり症候群
職場を退職した後、日常的に遊んでくれそうな友人は何人いますか?
「実はそれが心配で」という方もいらっしゃると思う。これは幸福に関する根本的な問い。
--------------------------
問:親しい友人がいるか…いない29.6% (回答:60歳以上男性)
平成23年度「高齢者の経済生活に関する意識調査結果」から
--------------------------
男性10人のうち3人に友人がいない。数十年間懸命に働いてきて、その結果友人もいないという人生の悲劇的結末。
世の多くの男性は職業人に特化して生きてきているために、家庭人・地域人・私人としての自分の居場所がない人が多い。退職後、家にずっと居て濡れ落ち葉族となりはて、料理など家庭人の基礎的スキルもできず疎まれる。近所には通ったことのない小道が多数あって、これと同じく言葉を交わしたことのないご近所さんだらけ。一念発起してテニスを始め近くのテニスコートに行くも新参者として扱われ、そこそこ会社での地位についていたプライドが許さない。
こうしてついに引きこもりになる。これを私は「退職後ひきこもり症候群」と呼ぶ。人生もったいない。
- 小さなプライドでひきこもり早世しないために
大雑把な推測を許していただけるならが、退職後ひきこもり症候群が一部早世の背景にあるのではないかと思っている。全員が60歳で退職するわけではない。下図のように60~64歳では55.0%つまり半数近くが働いている。
では60歳で退職する職種とはどんな層か。これには高学歴者が多い。教員・公務員・大企業社員。ある程度の社会的ステイタスを持った層だ。これに伴うプライドがひきこもりの要因となる。つまり前述したとおり、一念発起してテニスを始めようと近くのテニスコートに行くも新参者として扱われ、プライドが許さない。そこで退職後ひきこもり症候群に陥る。
また現在の60~64歳は団塊の世代にあたり、人口が多い。そこで彼等は旧市街からあぶれ、新興住宅地に自宅を構えた。そのため退職後はいよいよ人的ネットワークの薄い地域に帰っていくことなり、これが孤立感に輪をかけている。
- 退職後ひきこもり症候群