私の文筆
昔走った稜線
そのころ僕たちは大学生で、充分に中途半端な自分たちの歳を持て余していた。「レコードってやつは」と彼は言った。「小市民の人生に似てる。広がりがあるようで、実はか細い一本の線だ。傷つきやすく、そしてよくぶつぶつ言う」
第3回パスカル短篇文学新人賞に応募し、審査委員長:筒井康隆氏より全応募作品中,最高得点をいただいた想い出の短編小説です。下記が筒井康隆氏から本作品にいただいた評価。
- === <6> pascal/selection, LZ2Y-TTI(筒井 康隆), 96/ 1/20 14:24, 49行, 2(7)関連
昔走った稜線 92点
ヴォネガットの影響を思わせる色彩感あふれた才気ある文体が実に楽しい。プロに近い文章そのもので読者を楽しませようという応募作がここのところ皆無だったので、特に嬉しかった。この文体、他の委員の中には「気障」として退ける人がいるかもしれない。文体に凝り過ぎて、富田の人間像が希薄なのは惜しい。
=== <1> pascal/selection, LZ2Y-TTI(筒井 康隆), 95/11/ 3 11:45, 24行, 1(11)関連
標題: 選考にあたって。
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選考にあたり、小生の採点基準を申し上げておきます。
例年通り、60点以下は★のマークで示し、基本的には選評をしません。通常の新人賞応募作品ならば一次選考で落され、下読みの委員に最初の数行しか読んでもらえない水準のものとお考えください。だからこそ選評が不可能と言えます。小生はできるだけ最後まで読みますが、それによって何か言っておきたいことがあれば簡単に書き込むこともあります。
80点以上は、商業誌掲載可能作品ですが、これはもちろん商業誌にもよるわけで、また「埋め草」扱いから、きちんと作品として遇されるまでの諸段階があることは無論で、これは作品ごとに申しあげます。またここには、未完成で、商業誌掲載はとても不可能と思われるものでありながら、大きな可能性を内包しているものも含まれます。
90点以上は優秀作です。他の多くの委員と意見が一致した場合は最終選考に残る作品です。
小生が95点以上をさしあげた作品は、他の委員といかに評価が分かれようと、一応最終選考にだけは残るとお考えください。これは他の委員が単独で強く推した作品の場合にも当てはまる筈です。
言うまでもなく小生の採点が絶対のものではありません。★をとった作者がその次の作品で大化けすることもあり得ますが、こうした時、選考委員はただ不明を恥じるしかないのでしょう。
笑犬楼
自分のいる風景
島原での記憶はと問うと、犬だと答えた。
「犬?」
「ええ、犬です。転出するその日、僕は母と小学校に行ったんです。手を引かれた妹も一緒でした」
よかったら転校生の話をいつか書いてください、と彼は言った。しかしこの文章は多分彼の意に反することだろう。
星のきかんしゃ物語
君に,とても魅力的な男の話を伝えよう。彼の生き方を知れば,少しは気楽になれるだろう。人生に意味はない。行動だけがそれを作る。定義を先だって求めるのは人の悪い癖だ。
独身時代、ペンション、アウトドア、サギ師、そして雲仙噴火災害。
Index
ZONE
深い霧に覆われた領域ゾーン。その只中に忽然と存在するアーケード。
「このアーケードは膨大な無駄話の缶詰だわ」
飛べない妖精は僕にそう言う。
「みんな現実ならば,人生は一枚岩のように重くなるよ」
やがて発生するテロリズム。
「君達は惨めなやどかり達だ。己れの殻を打ち破る事に怯え続けるやどかりだ」
神の創造に挑むペルモス教徒たち。
僕は騒然とするアーケードと濃霧の中に身を浸し始める。
中編小説。20代が終わろうとする頃,突然書きたくなった作品。