対馬シーカヤックツアー
シーカヤックツアー
対馬、浅茅湾、七月。
先ほどまで機内から見下ろしていた入り江の中にいる。
紺碧の空と海。
パドルが水面をかく音。
視界に人工物は一切なし。総天然風景。
青き水の惑星、地球に漂う実感。どこまでも広がる空と海の稜線の一点に自分がいて、呼吸をし、感動しているという滑稽さ。ここにくれば笑うほど人間が小さな存在であることを思い知らされる。
パドルを漕ぐ。それほど経たぬ内に疲れ腕を休めて、艇が水面を滑るに任せる。膝の高さには水面があって、陽の光を浴び青と銀の煌めきを彩織る。そして研がれた鋏のようにタンデムがしなやかにそれを切り進む。奇岩のパノラマがゆっくりとめくれ展開する。
「あそこにミサゴがいますね。準絶滅危惧種です」
ガイドの調さんの声が背後の座席から聞こえた。頭を巡らす。しばらくすると白い足を持った鳥は、しなやかに翼をはためかせ飛び去っていった。
白鳥は 哀しからずや 空の青 海のあをにも そまずただよふ。そんな句が頭に浮かぶ。
自然は端的にして複雑だ。気づかぬ者には素っ気なく、読み解く者には多くを語る。地元のガイドさんの指摘なしには訪問者の目に現象は立ち現れにくい。言葉によって諸物は意味を付与され、世界は立体化されていく。贅沢なツアーだ。
金田城
やがて海に向かい屹立する鳥居が姿を現す。この光景は陸路から遠く、ただ海路からのみ出会える。金田城の鬼門を守る大吉戸神社だ。
1300年前、白村江の戦いに敗した大和は対馬に古代朝鮮式山城である金田城を築いた。大陸からの攻撃を恐れたのだ。
上陸し一ノ城戸、二ノ城戸を訪ねる。古代の石組。上部には累々たる石塊が転がっていた。防人がここで任にあたっていたのだ。ほぼ手付かずの状態の遺跡に立ち上る歴史の香。再び海に戻って、立入禁止となっている三ノ城戸を海面上から望む。
渚にて
帰路、名もなき渚に上陸し休憩。
そこで頂いたよく冷えたキュウリとプチトマトのおいしかったこと。
対馬を訪れるなら、飼育山猫と、酒場だけではもったいない。飛行機の窓から眼下一杯に広がる海面を眺め、降り立った後はガイドをお願いしてカヤックから溺れ谷の風景を満喫する。半日あればできる体験だ。国境に位置する手付かずの自然を満喫してはいかがか。