光と影
夜半、里山に到着し樹木の中に分け入る。闇の中、私はカバノンのドアを開け灯をともす。闇の中に自分の領分を分けてもらうのだ。点々とキャンドルやランタンを灯し、私が見ることができる領分を分けてもらう。
ジャズを流す。酒を楽しむ。 光は私たちにやすらぎを与え、闇もまた私たちにやすらぎをあたえる。ただ光にあふれるのではなく、闇もあって私たちのいる場は深くなる。光だけが私たちを救うのではなく、闇もまた私たちを救う。
カバノンの中、私は光と音と風の移ろいで、時の経過を知る。時の流れは、実に緩やかだ。光ははじめ右側から差しはじめ、徐々に左へと振れていく。
いずれこの世から消えていく私が、人生の中でほしいものはなんなのか。 カバノンの中は、多様な方向から光が差すように設計した。ロフトの下には陰の飼い場も設えた。 晴れの日、雨の日、風の日、雪の日。外の世界には、この歳になってやっと慣れた。どうにかその素晴らしさを楽しみながら、見ることができるようになった。
こうして眺めていると、緑の思考が心地よい。 私は緑が好きだ。 光が降臨する日、私は森に向かい自分の名前を呼んでみる。
細い滝のようにテーブルに落ちるスポットライトの光。落下する光は黒いレザーソファーに吸収され消えていく。カバノン内部全体が、照らし出されたら、どんなに味気ないことだろう。
静寂は、虚無ではない。それは沸騰し始める前の思念の泡立ちだ。自然光の隅々に、静謐が充満する。
風の抜け道となった空間で、光は交錯し拡散する。
私は緑を倒す者であり、私は緑を愛する者だ。私は耽美的な自然賛美者の虚言を嫌う。
しかし掛け値なしに、私は緑が好きだ。
森陰に幾万もの葉を通して光降らせる緑が好きだ。そしてそれでもなお、静寂の陰張る森の深さもまた私は好きだ。
もう一度。
もう一度。