枕木デッキ
人間は、か細い。たかが膝までの笹藪があるだけで、森の中に立ち入ることをためらう。そんなか細い存在だ。
森へ立ち入るには導線が必要で、活動をするためには平面が必要となる。 人間は平面が好きだ。人間の活動の場を分けてもらうため、デッキという平面を森の中に敷きはじめよう。
果報は突然にやってきた。ステージを造る。
長崎県の早岐に上物の枕木があるとの電話。線路の分枝箇所に敷かれていたもので、通常の倍近くの長さがある枕木だ。これを購入し、ステージを造る。尋常ではなく重い枕木だった。
ステージがもたらす平面は貴重な活動の拠点になった。
こうして出会えた聖なる朝。天上からの光に私たちが包まれた一時だ。
次に大きな進展があったのは、長崎市の路面電車の枕木が大量に出ていると知った時だ。ユニックをレンタル。買い占めた枕木、百数十本。そして里山へと運搬する。
枕木は里山に隣接した道路際の空き地に山積みにした。そこから里山の奥へ1本づつ運ぶ。多くのご友人に手助けしていただいた。
一人で出かけた際も黙々と里山の中に運び込んだ。スクワットの要領で枕木の一端を持ち上げ、向こうに倒す。軽い地響きを上げて2mほど進む。これを延々に繰り返す。友人から「さいの河原の石積みのようだ」と言われた。
こうしてデッキが徐々に完成していき、私たちは一層森に遊ぶようになった。
ふたたび救世主到来の機会が来た。ステージとテラスをつなぐ工事だ。構想はあっても、行動の引き金は圧倒的情熱がなければ先に進まないものだ。
こうして森の中に枕木デッキが造られていったというお話。
音楽家や演劇家やシェフが作品をここで創り出すステージ。そして森を楽しむためのテラス。これらの枕木デッキは石の炉を囲むように造られている。
大きなパーティは枕木デッキ全体を使い開催する。
シュールレアリズム宣言で謳われた「解剖台の上でのミシンと洋傘の偶然の出会い」のような美しさ。森と人が美しく融合し、共に楽しむ場だ。