森の中の焚火
まずこれらの写真から始めよう。2001年4月30日。
のちに私の隠れ家となる里山に憑りつかれた頃の話だ。そぼ降る雨、そして霧。そんな中でブルーシートをタープ代わりに張って、雨を避け、お茶するの図。
足元をみるとぬかるんだ土でどろどろだ。こうして暖をとり、森に浸りこむことが最高に楽しかった。里山の焚火はこの小さな炉から始まった。
月日が過ぎ、やがて、人が集う炉を造りたいと思うようになった。人が集い、うっとりと焚火を見つめるための炉だ。
塩と酒と洗い米と五穀で清め安全を祈る。
里山のヒノキ林で焚き火をすることは、火薬庫でそれをすることと心得ていたがいい。樹木は根に油分が一番多い。消したと思っていても、火は地中を走り、離れたところで火の手が上がることがある。
穴を掘り、底部にブロックを敷き、さらにその上に耐熱レンガを敷き詰める。慎重に火をシールドする。
あなたはあなたの頭部の4倍ぐらいの大きさの石を動かした経験がおありか。私はある。もはや持てる代物ではない。全身を使い転がして移動させる。里山の入口から設置場所まで、うんこらしょよっこらしょと転がしていく。時には転がるタイミングで大地が少し揺れる。汗が噴き出す。これを炉に必要な分繰り返す。
石を組み上げて炉のかたちとする。気合いを入れてやらないと手を潰す。この石面の凹凸が、空気が取り込まれ炉の性能につながる。
できた。石の炉だ。上の写真、燃えているのは丸太である。チェンソーで長さ1m程に切り分け、炉で燃やす。
里山に訪れた方は、自然と焚き火のもとに集まる。丸太をテーブルがわりにしてグラスを置き、枕木に座り込み、焚き火を眺めながら、話をする。
ダッジオーブンが暖まっていく。
もう数十年間も焚き火をしたことがなかった人も、焚き火を目の前にすると、その魅力にうっとりとした顔をする。老若男女を問わない。人によっては、一日中焚き火の周りから離れない。
あるとき、皆で飲んで一眠りし、深夜テントから起き出すと、じっと一人焚火を見つめていた女性がいた。なにを考えていたんだろう。