Zone

6 只中
きめの細かい母乳のように,霧は僕を包み込む。
お帰りなさい。どうしたの,そんな顔して?
空しい……
いろんなことが,あったみたいね。
悲しいお酒を煽ることも知った。
空しい会話も吐いたし,空しいキスも交わした。
マーゼンは血迷い,神の問題もさっぱり。でしょう?
僕にはなにが……
お忘れなさい。
あなたは,いつだって振り向きすぎる。
さあ,着替えて。
食事にしましょう。
ナプキンはつけた?
そう,うまいわ。
赤いキャンドルに火を灯しましょうね。
ひとつ,
ふたつ,
みっつ……
僕のキャパシティの問題かな?
今はお忘れなさい。
とても悲しいよ……
明日は裏庭の水盤に,哀しみが満ちる日だわ,ね?
僕は,そこに瞳を浸すんだね?
よく思い出したわね,えらいわ。
じゃあ食事,いただきましょう。
食べるんだね?
ええ,食べるのよ。
イスをもっとテーブルへ……
これは,なに?
忘れた?
享楽の残り火。
あなたが馴染んでいたものよ。
テリーヌにしたわ,どう?
にがい……
泣かないで。
哀しみの中に生きるにがみは嫌い?
空しいよ。とてつもなく空しいよ。
多くを知ったからよ。
知れば空しさが増すの?
もう飽きたのかしら?
まだ僕は知らない。
けれど進み出れば,もっと世界が見えるのかな?
飽きたのなら,いらっしゃい。
人生で嘆くことばかり学んで来たわけじゃない。
抱いてあげるわ……
今は解る
自分が欲しい
これが僕?
気怠い
僕は知らない
確固とした自分が欲しい
僕は何者だろう
僕は何者だろう