むかしむかし、インターネットが普及しはじめたばかりの頃、あるところに小さなサイトがありました。まだ、「こんぴゅーた・うぃるす というのがあるらしいよ」と言っていた頃の事です。サイトにはささやかな掲示板がついており、時々訪れる人と穏やかな話がされていました。 やがて徐々に友人も増え、話も豊かなものになっていきましたが、困った事も起こってきました。心無い書きこみが張りつけられる事が毎日のようになり、マスコミもアクセスして来始めました。こうしてそのサイトは、掲示板を隠したのです。

あるとき、そのサイトの仲間の一人が大正時代に建てられた民家に呼ばれました。民家は私たちに自分を発端にした論議をはじめさせ、3週間を費やさせることになりました。そしてついにサイトのメンバーが実際に集まることになったのです。ずっと長い間、そうインターネットの世界でいえば本当に長い間、テキストだけで話し笑い怒り共感してきた仲間たちが、はじめて実際に会うオフ会。それは無人の古い民家に呼ばれることで実現する事になったのでした。

デザイナ、陶芸家、ガラス作家、僧侶、グリーンコーディネーター、サウンドクリエイター、エンジニア、実業家、教師、公務員……。仲間たちは、個人的な宝物を古民家に持ち寄り「記憶の展覧会」を行うことになりました。前夜が「はじめてのオフかい」、そして次の日が「記憶の展覧会」です。

当日、民家を訪ねていくと、座敷童子が一行を迎えてくれました。雨戸を開け、ガラス戸を開け放ち、風が通されました。花をたむけ、厠を清め、庭を履き、炭を炊いて、ビールが注がれました。やがて朋が満ちて、記憶の断片である出展品が運び込まれ、その地に秋がやってきました。部屋の光量を落とし、持ち寄られた酒と料理と話題に舌鼓を打ち、民家に抱かれて心溶かし、気づくと周りには虫の音がありました。
2003年9月、ほぼ満月の小川亭は、満ち足りた談笑を包み、深い夜を迎えていきました。


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